1. 『人新世の「資本論」』の限界【読書考➂】

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学長室より

『人新世の「資本論」』の限界【読書考➂】

    

学生のみなさん、夏休み、いかがお過ごしでしょうか?

青春時代、夢中になって書を読み思考を深め、自己の世界観を磨くのも学生にとって最高の「特権」-読書三昧で夏を乗り切るのもいいなと思います!

この読書考、「現代資本主義像」にフォーカスを当てて1回目は「志本主義論」を取り上げ、前回は「公益資本主義論」、「渋沢資本主義論」を紹介しました。今回は、すばり地球温暖化問題に挑む「現代版資本論」とでも言ったらよいのでしょうか。

それは、斎藤幸平氏の『人新世の「資本論」』(集英社、2020)。主要論点をみてみましょう―

➀ 氏は、「地球温暖化」の根本原因は、経済成長志向の「資本主義」そのものである、「資本主義」と「脱経済成長」ないし「脱炭素化」は両立しない、と力説しています。資本主義のもとで「カーボンニュートラル」(炭素中立の再エネ利用など温暖化対策)を進めると、企業経営は生産コストの上昇により成り立たなくなる、ということなのでしょう。気候温暖化を知らない19世紀のマルクスですが、氏は、当時「マルクスによる環境危機の予言」があったと指摘しています。

現実には、近年になり、ヨーロッパなど多くの国(スウェーデンやドイツ)で経済成長とともに脱炭素化が進み出していることは世界の注目を浴びています。

② それでは、どんな解決策が用意されているのでしょうか。氏は「資本主義に終止符を打つこと」、つまりは資本主義社会を廃止して、代わりに人々の「共同生産管理」(コモン)社会をつくることではないか、と提起しています。めざすのは「参加型社会主義」の「協同組合社会」のようです。

氏は、マルクスの「共産主義」(コミュニズム)の構想とは異なって、「協同組合社会」に希望をつないでいます。では、そのような未来社会は、どのようにすれば実現できると考えられているのか、次にみましょう。

③ 氏は、脱炭素化・脱資本主義のために「3.5%の人々が立ち上がる変革」を呼びかけています。それは、資本主義の「1%の超富裕層に立ち向かう困難な闘い」になるとみています。

果たして、多様な統治形態、独自の文化や伝統、自然条件などを持つ諸国家・地域があり、またIT系など巨大グローバル企業がせめぎ合うなか、誰が誰とどのように「闘い」希望を成就できるのでしょうか。

周知のように、人類の経験からしますと、ほとんどの「社会主義国」が経済停滞に陥り「市場経済」を取り入れざるをえない歴史の流れになっているのです。「社会主義」や「コミュニズム」は、その現代化や民主化を追求するほどに、皮肉にも資本主義に近づいてしまうようです。

斎藤氏の所説には、大胆な主張が含まれいくつかの疑問も浮かんできますが、それは同時に、約150年も前に出版されて栄誉ある古典の地位を占めた『資本論』といえども、どうしても免れることのできない時代の制約があるからと言ってよいでしょう。

それはともかく、巨大な生産力と文明を築き上げた資本主義が、地球史に「人新世」(ひとしんせい)という新たな地層を刻み込むであろうことは、氏の強調される通りではと思われます。気候危機は、人類共通の課題として、地球市民みんなに降りかかってきますので、世界規模のSDGsの推進に象徴されるように、互いに解決に向け身近なことから地道に協力する連帯責任があることは間違いありません。(私は、持続可能な市場経済として共存・協生・中庸を軸とする「イゴノミクス社会」を提起しています。拙著『イゴノミクスの世界』幻冬舎、2019)

学生のみなさん、持続可能な社会のためにはいったい何が必要なのか?考えていきましょう!

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