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  • HUB:高崎商科大学サジェスチョン

教育現場でChatGPTをどのように活用するのか?~「何でも応えてくれる」ツールを前に、教員の役割を見直す~

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世に出てたった数か月で、ニュースで扱われない日はないほど社会を大きく揺るがせている対話型AI「ChatGPT」。高校、大学をはじめとする学校現場でも、その存在は無視できなくなっています。教育への活用の仕方、そしてAI時代の教育の在り方について、高崎商科大学でAIや情報教育などを研究している2人の教員に話を聞きました。
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Q.教育現場で「ChatGPT」をどう活用するのか?

Step 01  教育に使ってもいいものか、迷っています

佐々木:高校でも大学でも、積極的に使いながら、教育効果が高い方法を模索していくのがよいだろうと考えています。確かに生徒や学生が誤った回答を鵜呑みにしたり、課題を横着したりするかもしれません。ChatGPTの回答か本人の回答か区別がつかないケースもあり、評価にも工夫が求められます。でも、社会の様々な場面でこれから使われていくことが確実な技術を、学校から遠ざけてしまっていいものでしょうか。たとえ学校で禁止したとしても、生徒や学生は家庭で便利な活用法を見いだしていくでしょう。学校と家庭の情報環境に、大きなギャップが生まれてしまいます。教員自身も学校で、日常で、実際にChatGPTを使ってみながら、教育に活用するベターな方法を、生徒・学生とともに考えていけるといいですね。

Step 02  知らない言葉から生徒の知識が芋づる式に増えていきます

中鉢:ChatGPTには1人の人間には持ち得ない膨大な知識量があるので、単なる検索では質問者がたどり着くことができなかったであろう新たな言葉や内容が含まれる例が珍しくありません。わからないことをChatGPTに聞き、回答内の未知の内容を調べることを繰り返せば、生徒の知識は芋づる式に増えていきます。与えられた知識ではなく、自分で聞いたことへの返答なので興味を持ちやすいでしょう。特に探究的な学びなど、グループごと、個人ごとに学習テーマが異なる場合、教員がどのテーマにも高度な知識を持って対応するのは難しいもの。まずはテーマについてChatGPTで対話させるだけでも、生徒の視点が広がり、教員の負担を削減できるのでは。もちろん、対話の内容に間違いが含まれる可能性はありますが、誤りの有無を確かめる行為もまた、テーマへの理解を深めるはずです。

Step 03  問いかけパートナーへの「壁打ち」でマンネリ化脱却も

中鉢:例えば、授業改善の相談相手に使ってはいかがでしょう。教え方がマンネリ化してきた単元があれば、新たな切り口がないか、ChatGPTに尋ねます。我々教員とて知識や経験は限られています。ChatGPTの豊富なデータ量がそれを補い、思いもよらぬ視点を提供してくれるかもしれません。このように、テキスト生成AIを問いかけパートナーとして視野を広げる壁打ち的な手法は、様々な業界でアイデア出しに使われています。高校では、部活の練習メニューの考案、修学旅行のプランニング、各種行事の企画立案などにも活かせるかもしれません。回答はあくまで原案で、状況に合わせてアレンジする必要はありますが、ゼロから考えるよりは効率的となり、できた余裕を、生徒と向き合う時間に使えます。

Step 04  より一層必要になる論理性や表現力、教科知識や思考力

佐々木:ChatGPTをはじめ生成AIの技術は"ひよこ"の段階です。まだまだ発展し、社会の多様な分野を支えることになるでしょう。AIが適切な答えを出すための指示(プロンプト)の出し方や問いかけ方、AIの回答を評価して適切に使う技術が、多くの人に求められるはずです。そこで重要性を増すのが、良い指示や問いを行うための論理性や表現力、回答の妥当性を判断するための教科知識や思考力。つまり、従来の教育で培ってきた力が欠かせないのです。一方で、AIにできないことにも注目が集まるでしょう。例えば体を使う仕事、農林水産業や、役者・ダンサー等のパフォーマーをめざす生徒が増えるかもしれません。私たち教員は、AIで何ができるか、できないかに、常に関心を寄せる必要があります。


今一度考えたい 一教員の役割、教育の意義ー

誰でもどこでも使えるツールが、人間をはるかに凌駕する知識をもとに、何でも教えてくれる。学習の進め方や、心の悩みの相談にも乗ってくれる。不完全な面も多いながら、AIがそこまでできる時代がやってきました。では、学校の、教員の役割とは何なのか。教育の意義を改めて考えるきっかけが、ChatGPTによってもたらされたように思います。
 
 私たち2人は、学校でも積極的に使いながら考えていこうとする立場ですが、すべての場面にChatGPTを使えばいいというものではないでしょう。「見つけた」「わかった」という喜びを味わわせたい場面であればあえて使わないなど、目的に応じて適不適を判断すべきです。また、「ChatGPTで結論がわかったから終わり」という状態は避けねばなりません。なぜその結論に至るのか、結論を得て次にどうするのか。答えがすぐに得られる時代だからこそ、自分で考える大切さを伝えたい。
 教育が、社会で生きる力を養うものであるのなら、私たち教員は変わりゆく社会に寄り添い、新たな教育の形を日々、模索していくべきでしょう。革新的な技術の到来を、教育の意義を見直す機会にしてみませんか。

今回インタビューした教授

商学部 経営学科

佐々木正仁・中鉢直宏

佐々木 正仁(博士/工学)
情報システムの最適化・知能化、ビジネス分野への人口知能応用などが専門。

中鉢 直宏(修士/政策・メディア)
教育工学、情報教育が専門。情報システム学会、情報処理学会などに所属。

佐々木正仁・中鉢直宏