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  • HUB:高崎商科大学サジェスチョン

生徒のためにやりたいこと、できない理由は何?~ファーストペンギンが飛び込めば、必ず変化は生まれる~

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2022年度から本格的にスタートした高等学校での「探求」。この新たな学びに対して、多くの戸惑いの声を耳にします。今号では、進路指導教諭から「改革力の高い大学」と評価を得ている高崎商科大学の渕上勇次郎前学長と築雅之学長に話を聞き、教育現場での「新たな挑戦」との向き合い方について考えてみました。


Q.生徒のためにやりたいこと、できない理由は何?

Point 01  新たな学びで気づいた一人ひとりと向き合う難しさ

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築:小中高大と教育のあらゆるステージで人材育成の在り方に変化を求められているのが、今の時代ではないでしょうか。十数年前までは、与えられた前提をもとに素早く答えを導き出せる人材を育てることに重きが置かれていたように思いますが、IT技術の進歩などに伴い変化の激しい社会を迎えた現在は、前提から本質的に考え、自分なりの正解にたどり着く力が求められるようになりました。そうして登場したのが「探究」です。

渕上:日本でも、すでに1970年代には、「探究学習」の存在は知らされていました。ただ、世代を問わずに「探究的な学習」が重視されるようになったのは、時代の求めるところが大きいのではと感じています。大学は、昔から「探究的な学び」を実践する場でした。そこで、少しでも現場の先生たちの役に立てればと考えて、本学でも経験やノウハウを共有する場づくりを行ってきました。ここ3年にわたって開催している高校の先生方との研修イベント『それぞれの探究』もそのうちの一つですね。

築:多くの高校の先生から話を伺うたびに感じるのは、「探究」特有の難しさです。生徒一人ひとりが問を立て、解決に向けて答えを探していくため教科書があるようでない。個別の疑問や思考、感性と向き合わなくてはいけないのが探究の難しさだと思います。
 さらに、その前段階で「そもそも何から始めればいいのか」「協力してくれる先生をどう増やせばいいか」と悩みも多いようです。そのためでしょうか、「どうすれば学校全体で協働して、新しい教育を進めていけるのですか」と質問されることがあります。

Point 02 Teal色のペンギンたちが叶えた学生のためのより良い大学

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渕上:教育現場にもトップダウン式の傾向はあります。ただ、本学に関して言えば、開学当初から教員も職員も比較的フラットな関係でした。メンバーが自ら考え、全員で同じ目的に向かって共鳴しながら行動していく、マネジメント論でいうと頃の「Teal色」の組織です。

築:トップが頭脳で判断を下し、その他は手足となって動くということも、教員が教育を、職員は運営をという縦割りもありません。学生に関わる以上、全員が教育者であるという矜持を持っています。「学生のために」という軸がブレないと信頼できるからこそ、学長も多くのことを現場に任せていらっしゃいますね。

渕上:自ら考え、何事もジブンゴト化している組織には推進力がありますから、私たち管理職は干渉せず、自由にアイデアを出せる環境づくりだけに注力していればいいと考えています。
 本学は、大変ありがたいことに「改革力の高い大学」という評価をいただきましたが、私や築先生が「組織を変えよう」と旗振りしたことは一度もありません。「学生を育てる」をジブンゴト化し、「やりたい」と思った人が立ち話的に仲間に話して行動したことが、結果として大学改革に繋がったのが実情です。スモールスタートしやすく、ファーストペンギンとして飛び込む人に同じ志をもった人が次々と力を貸してくれる組織だったからこそ得られた評価だと思います。

築:新しいことを始めるには、失敗を恐れずに、拙速かなとためらわないで、まずスタートしてみることが大切ですね。

Point 03  固定観念や専門分野の外に新たな発見がある

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築:学生の学びとして始まったさまざまなプロジェクトが、いまでは、企業や自治体などへと、学外にも協力の輪を大きく広げています。実は、私たち教員もその輪の中で研究畑以外の人と接する機会を得て、社会のリアルタイムな変化などを学んでいます。
 教員には専門分野があるため「一国一城の主」然と構えがちです。でも、一歩踏み出して専門以外のことに関わってみると、これが意外と楽しい。以前、学生から卒論にコンピュータゲームを取り上げたいと相談を受けて、私なりに考察しようとゲームと学問の結びつきについて調べてみたのですが、とてもいい刺激になり、視野も広がりました。専門分野にしか関われなかった昔より、学生がもった好奇心の芽を分けてもらって一緒に学べるいまの時代の方が充実しています。あらためて、教員という職業のおもしろさを実感しているところです。

渕上:教える側も教わる側も型があった方が楽なため、システマティックな、汎用性のある指導方法や学習方法を求めたくなるのも分かります。ただ、現代は学修者が主体となって、領域にとらわれずに学んでいく時代です。みんなが「"本当に"やりたかったこと」に気づきはじめ、多様性を尊重し、個性と能力を伸ばす教育へと変わりつつあるいまこそ、私たち教える側が固定観念や専門分野から飛び出す勇気を持つことが大切なのではないでしょうか。教える側と教えられる側がともに学び、新しい発見をしながら成長していけるような関係性を築いていきたいと考えています


小さな「やってみよう」から新しい学びが始まる

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築:学校という組織には多くの見えない壁が存在しています。「うちの学校は伝統的に......」「私は○○が専門だから」といった無意識のうちに思考をストップさせる壁です。会社員、教員に関わらず、大人になると組織での役割や守備範囲が気になって、できないことがたくさん出てきます。でも、本当に「できないこと」なのでしょうか。
 探究がすすめる「主体的、創造的、協同的に取り組む態度を育て、自己の生き方を考えること」は、私たち大人にも求められています。だからこそ、まずは私たち教員自身が「学び」を自分のものとして再発見し、楽しみ、自由に考え、その無意識の壁を越えてみる。そうすれば、「学び」への創造的なアイデアも自ずと生まれてくるはずです。

渕上:トップや組織の意向には大きな影響力があるので、いますぐに環境を変えるのは難しいですよね。「やっぱり無理かな」と弱気になることもあるかと思います。フラットさがあるとはいえ、それは本学でも同様です。それでも、これまでに数多くのプロジェクトが実現できたのは、教員一人ひとりの「やってみよう」があったからです。
 「組織を、学校を変えよう」と考えたらと途方もない闘いに感じるかもしれませんが、まずは自分か一人が行動してみるだけでも、状況は少しずつ変化していくはずです。それに、よく「周囲を巻き込んで」と言いますが、必ずしも総意を得る必要はありません。現場で感じたことを気軽に、同じ学科や教科の、両隣の先生に話して共感してくれる人が一人、二人と現れてくれたら、そこはもうスタート地点。あとは、勇気を出して「新しい学び」へ飛び込んでみればいいのではないでしょうか。

今回インタビューした教授

商学部 経営学科

渕上勇次郎 前学長

渕上 勇次郎
京都大学院経済学研究科 博士課程満期退学 博士(経済学)

渕上勇次郎  前学長

商学部 経営学科

築 雅之 教授

・『情報リテラシー概論—コンピュータの利用とネットワーク環境』(共著、ヴェリタス書房、2003 年)
・「情報リテラシー教育における GUI 操作教授法の体系化と評価の試み」(教育情報システム学会誌 vol.15 No.4 、1999 年)
・「教科「情報」におけるプログラミング言語実習の方法と視点に関する-考察-」高崎商科大学紀要 第 20 号(2005 年)

築 雅之 教授