- 先生インタビュー
群馬の特産品「桑茶」とSDGs(持続可能な開発目標)の意外なつながりって?
群馬の特産品である、桑の葉を使った「桑茶」。このおいしいお茶と、今、国際社会共通の目標である「SDGs」には、実はつながりがあるそうです。でも、そもそも「SDGs」って?「持続可能な開発目標」って難しそうな言葉だけど私たちの生活に関わりはあるの? 今回は、そんな疑問について、環境教育・ESD(持続可能な開発のための教育)の手法を用いて「持続可能な観光まちづくり」について研究している萩原豪准教授に聞いてみました!
SDGs(持続可能な開発目標)とは?
そもそも、「SDGs」とはどういうものなのでしょうか?
「SDGs(エスディージーズ)」とは、「持続可能な開発目標」を表す「Sustainable Development Goals」の略称で、2016年から2030年までに達成すべき、国際社会共通の目標のことです。持続可能な世界を実現するための17の目標と169のターゲットから構成されています。17の目標の具体例としては、「貧困をなくそう」「質の高い教育をみんなに」「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」「海の豊かさを守ろう」など。社会・経済・環境という3つの側面おいて、総合的に取り組めるように設定されています。
国際目標というと、どこか他人事のように感じがちですが、私たちの身近にあるトピックの具体例を教えてください。
例えば、うちの大学には太陽光発電のパネルがありますが、いかに太陽光パネルを活用し、再生可能エネルギーとして役立てていけるかというのは、SDGsの目標の一つである「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」とつながりますよね。
また、近年は海洋プラスチックごみの問題が深刻化していますが、ペットボトルではなくマイボトルを持つことで、プラスチックごみの排出量を抑えることができ、そこから「海の豊かさを守ろう」という目標を意識することができると思います。このように、私たちの身近にも、SDGsに関するさまざまなトピックは潜んでいるのです。
SDGsの目標達成において、現在どのような課題がありますか?
SDGsで見落とされがちなのが、"具体的な数値目標"です。例えば、「貧困をなくそう」という目標には、「現在1日1.25ドル未満で生活する人々と定義されている極度の貧困をあらゆる場所で終わらせる」など、目標の一つひとつに達成基準として明確な数値が設定されています。17の目標のテーマだけが取り上げられがちですが、目標達成のためには、何年後までに、何がどうなっていればいいのか、ということをきちんと意識し、具体的な方法について考えることが大切だと思います。
さらに、目標を達成するだけではなく、継続させるための対策も必要になるでしょう。現世代だけでなく、次世代、そして、その次の世代が直面する問題についても考える必要があります。また、SDGsには含まれていない問題もあります。例えば、「ジェンダー平等を実現させよう」という目標がありますが、これにはLGBTQ+の問題が含まれていません。17の目標にとらわれるのではなく、より広い視野で課題について考えることが大事です。
「桑茶」をきっかけに地域社会の持続可能性について考える
萩原先生は、「観光まちづくり」の専門で、大学のゼミでは地域活性化プロジェクトも行っているそうですね。
もともと、鹿児島大学に所属していた頃に、地域の環境について考えるプロジェクトを行っていたんです。同大学の半分は県外から来た学生だったのですが、鹿児島県に来ているのに、鹿児島県のことをよく知らない学生が多く、「せっかくだから地元に深く結びつくことをしよう」と地域について考える取り組みを始めました。
例えば、鹿児島県の沖永良部島(おきのえらぶじま)には、もともと水源が100以上あったのですが、水道ができてからは誰も水源を訪れなくなり、中にはなくなってしまったものもありました。昔は水源は聖地とされ、それを中心にそれぞれの集落があり、生き物もいたのに、今ではその事実や、その地域がもともと持っていた文化・遺産を伝える人がなかなかいない。そうなったとき、その地域が持続可能になるためにはどうしたらいいだろうかということを学生と一緒に考えました。
群馬でも、持続可能な地域についての授業を行っているそうですね。
例えば、群馬県の下仁田は、昭和の風景が残っていたり、富岡製糸場で使う繭のための天然冷蔵庫「荒船風穴」があったりと、とても価値のある町なのに人口がどんどん減っています。では、どうしたら活性化できるか、つまり持続可能な地域となるのかということを考えたりしています。
また、高崎商科大学にきてからは、実際に地域に出て行くこと、フィールドワークを積極的に行っています。例えば、草津は温泉が有名ですが、学生が実際に草津に行って、草津の魅力を探し、それを形にした「まちあるきマップ」の原案をつくってみました。若い学生たちの新鮮な視点で、下仁田や草津、その他県内各地を実際に訪れ、何かを感じ、そこから「化学反応」が起きてくれたらと思います。
環境教育・ESDって、"つながり"を見つけることが大切だと思うんです。昨年は、群馬県の特産品である桑茶を生かした創作レシピコンテスト「桑わんグランプリin群馬2018」を開催しました。「桑茶」は今、健康食品として注目されていますが、その知名度はまだまだです。「桑茶」について知ってもらうことで、そこから地域の歴史・文化などについての理解を深め、地域社会の持続可能性について考えてもらうため行ったイベントです。群馬県の人にとって、桑はお蚕さまの大切な食事ということは知っているでしょうが、そこから転じて桑の葉がお茶になっていることを知っている人はどれだけいるでしょうか。また県外の人にとっては、桑が養蚕業にとって重要なものであることを知っている人がどれだけいるのでしょうか。県内の人にとっても、県外の人にとっても「桑茶」を知ってもらうことは、群馬県の歴史や文化を知ってもらうことにつながることになります。また、レシピ開発の中に、CO2排出量削減や食材の使い切りなどを考えてもらう環境配慮行動を条件として入れることで、エネルギー環境問題への理解を深めてもらう仕掛けも作りました。このように、一つのことがいろんなことにつながっていくんです。
僕の授業に答えはない。一緒に答えを見つけよう
フィールドワークを通して、学生たちにはどんな気付きがあるのでしょうか。
実際に現場に行ったり、自身が体験したりすることを通じて、地域の課題を見つけるためにはさまざまな「目線」が必要だということを体感していると思います。例えば、インバウンドについて考えるため、学生たちと一緒に台湾を訪れた際は、食文化・生活文化の違いから、観光地での言語表示、現地の人とのコミュニケーションなどまで、「観光客の目線」から、さまざまな課題を発見することができました。さらに、非常に稀なことではあったのですが、偶然にも台湾で学生が帰国前日にインフルエンザにかかってしまったときは、「外国人の目線」から海外旅行保険の重要性について考えることができました。これらのことは、国内で日本人の目線だけから考えていたのでは見えてこなかったことだと思います。
また、群馬県には世界遺産の富岡製糸場がありますが、世界遺産への登録から年月が経った現在、訪問客の数は減っているのが現状です。例えば、ツアーなどで目的地だけ回るのでは、周辺都市にインバウンド効果はあまりないですよね。観光=「外の目線」から見ると、周辺都市を訪れるメリットがあまりないからです。しかし、周辺都市のまちづくりをするのは、「中の目線」を持つ人々になります。もし、周辺都市の人々がインバウンドのためにまちづくりを行う場合、「中の目線」だけではなく、必然的に「外の目線」を持たなくてはなりません。「観光まちづくり」は「外の目線」と「中の目線」の両方を同時に見ながら考えていく必要があります。このように、ひとつの課題を解決するためにも、さまざまな目線が必要なケースがあります。「観光」と「まちづくり」、どちらが先でどちらが後に来るのか、これを考えるのも人それぞれです。私は個人的に「まちづくりを基盤とした観光を通じて、まちづくりをさらに進めていく」というふうに考えています。こういったことを考えるきっかけや材料を、フィールドワークを通して学生に渡していきたいですね。
最後に、大学進学を控えた高校生の皆さんにメッセージをお願いします。
社会に出たら採点をしてくれる人はいません。なので、僕の授業に答えはありません。「教員」というよりも、ファシリテーターとして、さまざまな答えを見つけるきっかけ作りやサポートをしたいと思います。一緒に答えを見つけましょう!
准教授の持ち物!
オレンジ色のカバーをつけたMacBook ProとLet's note
どちらもシールを貼っているのが目印。共通して貼られ