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  • 先生インタビュー

時代の大きな転換期にある今、教員に求められることとは?

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今、学校現場ではいじめや不登校など、さまざまな問題が起きています。一方で社会人の学び直しや生涯学習など、社会全体の中での教育の重要性はますます高まっています。そんなこれからの時代、教育はどうあるべきなのでしょうか。教員にはどのような資質が求められるのでしょうか。日本の近代教育の研究者であり、教職課程を担当する菅原亮芳教授に話を聞きました。

明治以来、日本の教育はどのように変化してきたのか?

column_06_01.jpg大学が所蔵する貴重なコレクションの目次を持つ菅原先生

まずは先生の専門について聞かせてください。

私は子どもの頃から、学校の成績がよいことが良い人格につながるという考えに違和感を持っていました。学校の成績で人間を評価する日本の近代教育は、どこか間違っているのではないか。日本の社会をより良くするには、教育を変える必要があるのではないか。そう考えました。そして、この分野の大家である寺﨑昌男先生(東京大学・立教大学・桜美林大学名誉教授、高崎商科大学客員教授)に師事し、多くのことを学びました。

立教大学大学院に進んでからは、人生選択と学校選択、資格取得の関係を歴史的に見極めて、日本人の学びの構造史の解明に迫ることが、私の研究テーマとなりました。そして、進学案内書や教育雑誌・受験雑誌など、近代日本の青年の学びを方向づけたものに関して、歴史的な研究を続けてきました。

本学には日本唯一といえる進学案内書の膨大なコレクションがあり、目次も作りました。この分野の研究をするうえで非常に貴重な資料となっています。(寺﨑昌男先生寄贈本多数有り)

日本の教育は、歴史的にはどのように変わってきたのでしょうか。

1880年代前半に進学案内書が出たころは、学校は序列化されていませんでした。どこの学校であろうと、しっかり学んで、知識を得ることが大事だという発想だったのです。ところが、伊藤博文総理大臣、森有礼初代文部大臣のリーダーシップのもと、1886年に帝国大学が誕生します。そして20世紀初頭には、帝国大学を頂点とした「官高私低(官公立は評価が高く、私立は評価が低い)」の観念が生まれました。

さらに1950年以降、多くの国民が大学に行くようになり、国民が受験戦争に組み込まれます。「偏差値」が登場し、大学の序列化がさらに進んでいきます。その後、推薦入試やAO入試が始まったものの、日本の受験の本質は何も変わっていません。日本には昔から、偏差値の高い大学に進むことが幸せにつながるという考えが根強くあります。格差社会となった今、むしろその考えはさらに強固になっているように思えます。

学校、教育はどうあるべきか?

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なるほど。ただ現在は、明治から始まった日本の社会システム全体が、大きな転換期を迎えています。そのような中、教育にも変化は起きていないのでしょうか?

現代社会は複雑化、高度化し、学校で学ぶことだけでは、長い人生を生き抜く力は養えなくなっています。生涯学習やリカレント教育など、社会に出てからも、生涯にわたって学習を続ける理念が提唱されているのはそのためです。デジタルメディアの進歩により、今や学校で先生に教わらなくても、家でYouTubeを使って学んだほうが効率的だという考えさえあります。このような中、学校教育の存在意義自体が問われているのです。

社会の変化に応じて、学校も変わっていかなくてはならないのですね。

そうなんです。むしろ、「学校が本来あるべき姿に戻る必要がある」と考えたほうがよいのもしれません。もともと、教育=学校ではないのです。それなのにこれまでは、あまりにも学校の価値観が、社会に影響を及ぼしすぎていました。

しかし、これからはそんな学校が相対化され、地域社会や企業など、社会のあらゆるものが学びの場になっていくのではないでしょうか。本学でも海外でのボランティアや異文化交流、企業と連携して行う「3.5本の矢」という課外授業など、学校から外に出て、社会で学ぶ場を増やす努力をしています。

これからの教員に必要な資質とは?

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そのような時代、教員にはどのような資質が求められるのでしょうか。

未来が予測できないこれからの時代は、過去の知識を吸収するのではなく、答えのない問いを探究(Forschung)する力、勇気が必要です。自分の考えを持ち、プレゼンしたり議論する力、発想力や構想力、自分の考えや行動などを省みる力も必要です。そのようなこれからの社会で、生きる力をどう養うか。それが、これからの教員には問われています。

またこれからは、教師が一方的に上から何かを教えるような時代ではありません。教員の役割は、自分で学びを切りひらいていく生徒に寄り添い、サポートしていくことです。そのためには、生徒とともに考え、ともに歩む姿勢が大切です。

どんなに時代が変わっても、教師にとって最も大事な資質は、生徒一人ひとりの成長を願い、その成長に喜びを感じられること。本学の学生には、そのような若者が多いことは誇りに思っています。

ちなみに教職課程では、どのようなことを学ぶのでしょうか。

教員になるには「教科科目」と「教職科目」を履修しなくてはなりません。「教職科目」の中でも一番大事なのは、「教育学」と「心理学」です。教育学は、人間がよりよく生きるための学びとは何なのかを探究する学問です。さらに、私の師匠である寺﨑先生に教えていただいたのですが、教育学には、現在の教育を科学的に認識して方向性を見い出す「教育科学」と、実際に生徒に教えるための「教育実践学」とがあります。またいじめや不登校、中退といった問題が起きている教育現場では、人間とは何なのかを知り、人間について考える力が求められます。そのためにも心理学を学ぶ必要があるのです。

先ほど申し上げたように、これからは、教育が社会全体にひらかれていきます。そういった意味では、優れた教員の資質は、あらゆる分野で求められてくるでしょう。大学で教育についてきちんと学んだ経験は、たとえ学校の先生にならなくても、社会のあらゆる分野で活躍するうえで、大きな力となるのではないでしょうか。

高崎商科大学で教職課程を受ける学生の特徴はありますか?

真面目で熱心に勉学に励む学生、志が高く、目的意識を持った学生が多いと思います。うちの教職課程は学年や学科が違う人との交流もあり、卒業生との絆が強いのも特色です。3年の年末に行う模擬授業には、必ず現職の教員をしている先輩が来てくれて、実践的なアドバイスをしてくれます。先生たちもとても面倒見がいい。学生との距離が近く、気軽に相談できる関係です。

最後に、大学進学を控えた高校生のみなさんにメッセージをお願いします。

大学選びでは、ブランドや偏差値ばかりにとらわれず、その大学の歴史や教員スタッフ、就職状況などの内実をしっかり見極めることが大切です。メディアの情報だけでなく、在校生の声なども聞いて、ぜひ自分の目と耳と心で確かめて選んでいただきたいと思います。

先生の必需品!

教職課程の科目ごとの資料がぎっしり詰まった12個の布のカバン。科目ごとにそれぞれのカバンを持って教室に向かう!

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先生の著書

受験・進学・学校 近代日本教育雑誌にみる情報の研究

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近代日本における学校選択情報 雑誌メディアは何を伝えたか

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今回インタビューした教授

商学部 経営学科

菅原 亮芳 教授(博士(教育学))

略歴
1991年 立教大学大学院博士課程後期課程満期退学、1991年~2002年 財団法人日本私学教育研究所・主任研究員(教育課程、初任者研修等担当専門研究員)、2002年~現在に至る 高崎商科大学教授

専門
教育学・教育史。近代日本教育情報史研究、近代日本における青年の「学び」の構造史、近代日本における育英奨学事業の歴史的研究、近代日本における教育論の系譜、準専門職志望者に伝えられたキャリア情報・試験情報並びに言説に関する史的研究

著書
『近代日本教育関係雑誌目次集成』(全85巻)(共編著)日本図書センター(1987~93年)
『近代日本における知の配分と国民統合』(共著)第一法規出版(1993年)
『「文検」試験問題の研究』(共著)学文社(1997年)
『「文検」試験問題の研究』(共著)学文社(2003年)
『受験・進学・学校』(単独編)学文社(2008年)
『近代日本における学校選択情報―雑誌メディアは何を伝えたか』(単著)学文社(2013年)

論文
「『受験と小學生』目次」『高崎商科大学紀要』第30号(単著)高崎商科大学メディアセンター(2015年)
「準専門職の基本的特徴と日本の教員の専門職論の系譜・序説―先行研究の紹介と整理を通して―」『高崎商科大学紀要』第31号(単著)高崎商科大学メディアセンター(2016年)
「『一橋専門部教員養成所史』にあらわれた商業教員の専門職化過程に関する小考(1)」『高崎商科大学紀要』第32号(単著)高崎商科大学メディアセンター(2017年)

研究代表として採択された科研
平成28年度(2016年度)基盤研究(B)(一般)「近代日本準専門職形成史の研究:キャリアコース・試験情報・専門性向上言説を中心に」
平成19年度(2007年度)基盤研究(B)(一般)「近代日本人のキャリアデザインの形成と教育ジャーナリズム」
平成15年度(2003年度)基盤研究(B)(一般)「近代日本における教育情報の歴史的研究」

菅原 亮芳 教授(博士(教育学))