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今、企業が力を入れている、「CSR」って一体どんなもの?

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皆さんはニュースや新聞などで「CSR」という言葉を見かけたことはありませんか? 日本では大手企業を中心に、企業の社会的な動きを伝えるために、自社のWebサイトなどでCSRを公表している企業が増えています。今の社会においてどのような意味を持っているのでしょうか。今回は、そんなCSRについて、企業のビジネス理論や経営管理・自己管理について研究している田中敬幸准教授に聞いてみました!

各企業が取り組むべき活動や課題を見つけることがCSRの本質

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まずCSRの意味について教えてください。

CSRとはCorporate Social Responsibilityの略で、「企業の社会的責任」という意味があります。これは、企業は利益の追求だけでなく、従業員や消費者、地域社会などに配慮した社会活動を行うべきである、という理念を指しています。

例えば、貧困問題を抱える国の企業ならば「いかに児童労働をさせないか」、航空系の企業ならば「いかに安全性を極めるか」、といった考えと行動がCSRにつながります。日本では最近、育休・産休など、産後の女性が会社に復帰しやすい制度の整備に力を入れる企業が増えていますが、これも、各企業が「女性の職場環境改善」という目の前にある課題を見つけ、その解決のために取り組んでいる活動なので、CSRの一環にあたりますね。

このように、それぞれの企業が、自らを取り巻く社会・環境の中から取り組むべき課題を見つけて追求していくということがCSRになるので、企業の業種や、国・地域、時代などによって取り組むべき活動は異なります。つまり、すべての企業に当てはまる普遍的なCSRはありません。

企業を取り巻く倫理的な問題について学ぶ「ビジネス倫理」

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先生が専門としている「ビジネス倫理」とはどんな学問なんですか?

CSRのように企業がいかに地域や社会とうまくやっていくかや、どう不祥事を防ぐかなど、企業を取り巻く「倫理的な問題」についてさまざまな角度から学ぶのが、私が担当している「ビジネス倫理」です。

例えば、ある企業がベテラン作業員のAさんに機械の検査を行わせていたとします。社内視点で見ると、何万台も検査をしてきたAさんが検査を任されていることは当たり前、会社として「正解」の状態です。しかし、実はその検査には資格が必要で、Aさんは無資格だったことが発覚したとします。この場合、Aさんはじめ企業は、消費者を騙そうといった悪意があったわけではなく、自分たちが「正解」だと思ってやっていたことが、結果的に不正だったということになってしまいます。

また、アメリカでハリケーン・カトリーナによる災害が起こったとき、生活に必要な発電機や宿泊施設の価格が高騰しました。このとき、アメリカでは、災害によってそれを欲しいと思う人の数が増えたのだから、価格が上がることは経済活動として普通のこと、価格の高騰は受け入れられるという人も少なくありませんでした。しかし、日本で東日本大震災が起こったとき、水を高額な値段で売ろうとした人は、「災害で苦しんでいるときに価格を上げるなんて間違っている!」と大バッシングを受けてしまいました。もし彼がアメリカで同じようなことをしても、受け入れられたかもしれないのに、日本では「倫理的・道徳的に間違い」と判断されてしまったのです。

このように、国・地域、文化的背景、立場や個々によって「正解」が異なる難しい課題について学ぶのがビジネス倫理です。もし企業がいろいろな国でビジネスをするとなると、このような問題について知っておかなければ、知らないうちに不祥事をはたらくことになりかねません。自分が加害者側にならないために、ビジネス倫理は大切な学問なのです。

個々によって正解が異なる学問を教えるのは難しいと思います。講義はどのように行っているんですか?

講義では、ディスカッションを重ねながら意見交換を行い、自分なりの答えを導き出せるようにしています。自分の持っている価値観と他人の持っている価値観を共有することは、とても難しいことです。自分が「正解」だと思っていても、他人から見たらそうでない場合もたくさんあります。その違いをディスカッションによって感じる、そして、考えを突き詰めていくことで、理解につながっていくと考えています。

地元の経営課題について知ることで、ビジネスをより身近に考えることができる

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企業のビジネスについて考える上で、大切なことは何ですか?

本学では、地元の中小企業と連携して、会社の経営者が主催するイベントに学生が参加したり、ネットワークを生かして経営者と触れ合う機会が多くあります。もちろん、知識を身に付けたり、考え抜いたりする座学も大切ですが、実際の企業や経営者と関わることも重要なことです。また、県内のさまざまな場所に出かけて、地元の経営課題について知ることで、企業のビジネスをより身近に考えることができると思います。

また、本学では、「地元にいかに貢献できるか」ということに対して、さまざまなアプローチを行い、企業と連携して学ぶことができます。高崎が出身でなくても、地元に帰ってから街を良くしたいという方にとっては多面的な学びや多角的なアプローチを知ることができるはずですよ。

先生の必需品!

デジタルペーパー

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今回インタビューした教授

商学部 経営学科

田中敬幸 准教授

著書
・『経営倫理用語辞典』(共著)白桃書房(2008年)
・『グローバル企業の経営倫理・CSR』(共著)白桃書房(2013年)

論文
・「サブプライムローン問題とビジネス・エシックス―証券化の目的とその意義―」(2010年)
・「ビジネスにおける社会契約—統合社会契約論を巡る議論の限界と新たな可能性を模索して」(2012年)
・「日本の CSR の特徴と変遷―CSR 報告書における企業トップの声明の分析―」(2014年)

田中敬幸 准教授